課題研究成果報告

連番
19
代表研究者氏名
木﨑 速人
研究代表者所属機関名・役職
慶應義塾大学薬学部 医薬品情報学講座 助教
課題研究班メンバー (代表者:○) ※所属は申請時点
課題研究名
要介護等高齢者の医療安全確保に向けた介護施設における服薬介助関連インシデントの要因解析ならびに服薬介助とそのリスクマネジメントのあり方に関する検討
設置期間
2019年4月1日〜2020年3月31日
課題研究の背景及び目的
【課題研究の背景(必要性)】
 介護施設には介護や支援が必要な(以下、要介護等)高齢者が多く入居しており、食事・排泄・入浴などの生活に必要な行為の支援が介護者によって行われている。中でも、介護者が提供する重要な支援の一つとして「服薬介助」がある。以前は服薬介助が医療行為にあたるかどうか不明瞭であったが、2005 年に厚生労働省が特定の条件下における服薬介助行為は医療行為でないことを示したことにより、医師や看護師等の免許を有さない介護者も正式に服薬介助を行うことができるようになった。服薬は要介護等高齢者が健康を維持する上で重要な行為である一方、飲み間違いや飲み忘れ等により重大事故を招きうる危険な行為でもある。薬学的教育が十分に整備されていない中での介護者による服薬の支援は、服薬介助に伴うさまざまなインシデントを誘発しうる。こうした状況下で、服薬介助の体系的なリスクマネジメントはこれまでに行われてこなかった。
 今後高齢化が進むに連れて、医療従事者でない介護者が服薬介助を行う機会は増えていくと考えられるため、介護者による服薬介助に伴うインシデントの要因を明らかにし、それらをもとに服薬介助の適正化を図ることは重要であると考える。
【課題研究の目的(期待される成果)】
課題研究の目的は、介護施設において発生するインシデントの発生要因を明らかにすることを
通じて、服薬介助のリスクマネジメント方策を立案し、介護施設における要介護等高齢者に対する望ましい服薬介助のあり方を示すことである。本研究課題で明らかになるインシデント発生要因をリスト化することで、各介護施設における服薬介助オペレーションを見直すための指標とする。
 本研究は、十分な医療設備や人員のない介護施設において、服薬介助の適正化という観点から医薬品適正使用・医療安全を促すための新規情報の創製を試みるはじめての研究である。本研究で創製した新規情報をもとに、要介護等高齢者を対象とした服薬介助の適正化が可能となると考えられる。本研究において得られた知見は在宅等における介護者の服薬支援にも援用できる可能性をもつ点で、幅広い応用可能性がある。さらに、介護施設における要介護等高齢者に対する服薬支援のあり方を見直す中で、介護領域における薬剤師の新たな関わり方を明らかにできる可能性があり、薬剤師が活躍するフィールドの拡張に貢献しうる研究である。
【キーワード】
医療安全、介護、服薬介助、薬剤師
1.課題研究の成果

【目的】
介護施設における薬物療法の適正化のためには,服薬介助に伴い発生する誤薬のリスクマネジメントが重要である.そこで本研究では,誤薬発生に関与した介護士を対象にインタビュー調査を実施し,誤薬の発生要因を分析することで,誤薬のリスクマネジメント手法への示唆を得ることを目的とした.
【方法】
 誤薬に関与した介護士を対象に,インタビューガイドに基づく半構造化インタビューを実施した.インタビューでは,「どのように誤薬が発生したのか?」「なぜ誤薬が発生したのか?」について介護士に尋ねた.インタビューデータを逐語録化し,質的内容分析を用いてコーディングを行い,テーマを生成した.
【結果】
対象者の年代は20代が4名,30代が1名,40代が7名で,性別は男性7名,女性5名であった.誤薬発生において個人に由来する要因(individual factor)として,<服薬介助に関連した知識の不足>,<介護者の精神上の問題>,<他のスタッフとのコミュニケーションの失敗>,<服薬介助経験>が挙げられており,これらが<手順書の不遵守>を招き,誤薬発生に至ると考えられた.また,<手順書の不遵守>の背景には,<入居者の認知機能の低下>や<入居者の薬の拒否>といった入居者要因や,<他の入居者の存在>,<服薬介助に並行した業務や次の業務の存在>,<入居者の席配置>,<時間的余裕の無さ>,<施設の安全文化醸成への無理解>といった,システムに由来する要因(system factor)が存在することが考えられた.
【考察とまとめ】
多くの対象者が誤薬発生の要因として手順書の不遵守に言及しており,誤薬発生の直接の要因である可能性が示唆された.手順書の不遵守のリスクを避けるためには,①施設全体として安全を守る文化を醸成する,②大人数の入居者に対して一人で実施する服薬介助を避ける,③食事と服薬介助提供を同じ場所で行うシステムを見直す,といったsystem factorへのアプローチが有効であると考えられた.

2.研究発表

【学会発表】
木崎 速人, 山本 大輔, 佐藤 宏樹, 馬来 秀行, 益子 幸太郎, 小西 ゆかり, 堀 里子, 澤田 康文.
半構造化インタビューに基づく介護施設での服薬介助時に発生する誤薬の要因分析(口頭).第23回日本医薬品情報学会総会・学術大会,2021年6月
【学術論文】
Kizaki H, Yamamoto D, Satoh H, Masuko K, Maki H, Konishi Y, Hori S, Sawada Y. Analysis of contributory factors to incidents related to medication assistance for residents taking medicines in residential care homes for the elderly: a qualitative interview survey with care home staff. BMC Geriatr. 2022 Apr 22;22(1):352. doi: 10.1186/s12877-022-03016-4.

資料